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環境のムーブメントが桜の開花並みにワクワクできるようになる話〜食と環境を考えるコラム その2〜



2021.04.01


こんにちは、デザイナーの安永です。




なぜなら、今多くのスタートアップが社会を持続可能な方向へとシフトさせようと、新たなビジネスを立ち上げ、消費者にもそれが歓迎されているからです。また、前回の記事でご紹介した通り、Appleのような大企業もアクセルを踏み出していますし、企業だけに任せてはいけないと、NPOや一部行政も動き出しています。


今世界中で起きているこのムーブメントをより身近に感じて、ワクワクしていただければ幸いです!




【代替食品Beyond Meat】


前回の記事でもお話しした畜産業の温暖化への影響...これに対して対策を掲げ、一躍フードテック王者になったのは代替プロテインを作るBeyond Meat社です。ヒトの健康と地球の「健康」両方に良いプロテインを目指し、植物性の材料だけで、肉のバーガーパティと見分けがつかないくらいジューシーで美味しいものを開発しました。肉と同じように火を入れると焼き色がつき、かぶりつくと肉汁のような旨味たっぷりの汁が滴る、圧巻の仕上がりです。ここまで詳しく書くのも、私自身イギリスのバーガーチェーンでBeyond Meat社のパティを使用したハンガーガーを食べて、肉以上に美味しい...!とビックリしたことがあるからです。競合のImpossible Burgerと共に、海外ではバーガーキングやHonest Burgerなど、様々な飲食チェーンで提供されています。







【再生農業Zero FoodPrint】


さて、興奮気味に植物性のバーガーをご紹介しましたが、大量生産型の畜産や農業が抱える問題に対して、フードテックだけが答えではもちろんありません。


今、土を変えることで深刻な温暖化を阻止しようという動きがあります。



ご存知の通り、植物は空気中のCO2を吸収して光合成を行います。そして、土壌の微生物や菌が多く、植物の根っこが長ければ長いほど、温暖化を引き起こすCO2を多く土壌に蓄えられます。


土壌を弱らせる大量生産型の農法ではなく、土壌の活性化を目指す「環境再生型農業」と呼ばれる農法(コンポストや放牧など)を使って、温暖化を緩和しようという取り組みに注目が集まっています。


そしてこの環境再生型農業を、レストランなどと提携して支援しているアメリカのプラットフォームがZero Food Print (ZFP) です。飲食店や食品企業の売り上げの一部やZFPのメンバーの支援金を再生農業を始めようとしている農家に届けることで、より多くの農地で大気中のCO2を吸収できるよう経済的なサポートをしています。


温暖化による気温上昇を1.5°に抑えるためには化石燃料の使用をやめるだけでなく、今ある温室効果ガスを減らすことが重要になります。今ある土の本来の生態系を回復させることで今世紀最大の危機を回避できるのであれば、将来できるかもしれないハイテクな技術に頼るよりも良いのかもしれません。






【LFCコンポスト】


先ほどの「環境再生型農業」の一貫であるコンポストを、個人が手軽に始められるサービスを提案しているのはLFCコンポストです。LFCのサブスクリプションに加入すると、繰り返し使える布袋とコンポスト基材が定期的に送られてきます。投入期間に、料理をする中で出る生ゴミや、食べ残しなどを入れて混ぜ、3週間ほどの熟成期間を経ると、良質な堆肥が出来上がります。筆者も同サービスを利用しており、コンポストを迎え入れてから燃えるゴミが格段に減った上、家庭菜園を始めるきっかけにもなりました。


また、サブスクリプションを利用している人が集う「LFCコンポストコミュニティ」がFacebook上にあります。持続可能な社会へ向けて、コンポスト作りを継続している仲間と繋がることができるプラットフォームです。他の商品・サービスにも言えることかもしれませんが環境に良いことであると同時に、自分が楽しむことで個人の活動としても持続可能であるということは重要なポイントですよね。






【ビーガンコミュニティ冷蔵庫NY】


このような動きが、富裕層や一部の意識の高い消費者に限らないことは、NYにあるビーガン専用のコミュニティ冷蔵庫を見ると分かります。2021年(2月)、ビーガンの人を含む複数の団体がコラボして運営する「Overthrow Community Fridge」ができました。誰でも食料品を寄付でき、誰でも必要なものを取り出して良い場所です。具体的には野菜や果物などの生鮮食品の他、豆類やパスタなどの乾物、コットンなどでできた植物性の衣類、生理用品などが置かれています。設立理由は様々ですが、「経済力に関係なく、全ての人が健康に良い、倫理観に基づいた食の選択ができる社会でなければならない」という創設者の思いがあり、実際にここに食べ物を求めてくる人の多くは、ホームレスの人、コロナの影響でお給料が減ってしまった人、学生などだそうです。


この冷蔵庫に全てを解決する力はありませんが、格差や気候危機を含め多くの問題を抱える現在の食のシステムとは別の、コミュニティの力で成り立つオルタナティブを提示していると思います。









【ドーナツ型経済】


政治家は気候危機を全然「危機」として扱っていない、と若き環境活動家のグレタトゥンペリは批判していますが、一歩先をいく政策としてアムステルダム市がコロナ後の経済を立て直すために推し進めている「ドーナツ型経済モデル」があります。


朝日新聞デジタル



オックスフォード大学の経済学者 ケイト・ラワースが提唱したこのモデルは、人間の消費活動と地球環境の持続可能性の関係を表したものです。


ドーナツを思い描いてみると、内側の円と外側の円があります。ラワース氏のドーナツの内側の円は、SDGsに示されているような、最低限の暮らしを満たす生活ラインを現しています。安全で健康的な食料や水、職業や収入などです。ドーナツの外側の円は、科学者が提唱する人間の活動が環境へ悪影響を与えてしまうラインを現しています。大気汚染、生物多様性ロス、海の酸性化、気候変動などです。


つまり、ドーナツの外側にも内側にもはみ出さない範囲で人間は生活をすることが理想的、ということを分かりやすく見せている図なのです。


ラワース氏はアムステルダム市に協力し、この全世界版のモデルをアムステルダム仕様に縮小し、どの部分で基礎的なニーズが満たされていないのか、逆にどこで環境の許容量を超えてしまっているのかを明確にしました。


その結果、大規模なインフラ事業や、新しい政策、そして地域ごとの課題を解決するための組織などができました。食に関する事例では「true price initiative」という物の値段に「環境負荷」や「生産者の適切な賃金」などを反映させるものがあります。例えばスーパーのズッキーニのタグには、カーボンフットプリント1kgあたりプラス6¢、農業による土壌の負荷5¢、労働者への適切な賃金4¢と書いてあります。これらのコストは、今までは誰も払っても考えてもこなかったものですが、透明化により環境や労働者への負荷が明らかになったのです。


また、アムステルダム市のドーナツ型社会のビジョンを凝縮した場所がStrandeiland(ビーチアイランド)と呼ばれる新しい島です。湖の生態系を壊さない方法で、砂を積み上げ作られたこの島はCO2排出ゼロ、公営住宅と自然環境へのアクセスを優先してデザインされています。





aasarchitecture




アムステルダムがこのようなラディカルな取り組みを進めているのを見て、他国の多くの自治体も刺激を受けて変革に加わろうとしています。コペンハーゲンやブリュッセル、ニュージーランドが今ではドーナツ型経済モデルを取り入れていますし、アメリカではポートランドやオレゴン州が準備を始めています。


このモデルの目的のように「格差をなくす」と聞くと社会主義?と反射的に思って敬遠してしまいがちですが、地球環境を壊しているような消費活動を押さえ、足りていないインフラやサービスを補うと考えると、とても合理的で長期的に見るとより多くの人に幸せをもたらすように思えます。



国内外の企業からNPO、行政まで幅広い事例をご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?このサービス試してみたい、こんなシステムがいいな!と思えるものはありましたか?読者の皆さまの身近なところにも、きっと草の根のレベルで様々な活動があると思いますし、関わることのできること、利用できるものなどあるかと思います。


資本主義の中では「買い物は投票」と言われるくらい影響力があります。


また、同じように民主主義社会の中では声を上げることと、投票をすることは言うまでもなく変革を起こすのに有効です。



次回の記事では、個人のレベルで私たちができることをご紹介したいと思っています。




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